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最高裁判所第三小法廷 昭和37年(オ)291号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担する。

理由

上告代理人塩田親雄の上告理由第一点について。

所論はすべて、本件農地が上告人の財産管理人高山道子から訴外鳥羽に売り渡され、同訴外人から更に被上告人に転売されたことを前提として原判決の違法をいうものであるが、右転売は原判決の認定しない事実であるから、採用できない。

同第二点について。

論旨中、所論許可申請書の偽造をいう点は、原審認定にそわないことを主張するものであり、右偽造を前提として原判決の違法をいう所論は、すべて採用できない。

論旨中、甲五号証(知事の許可書)甲八号証(許可申請書)等の書証の証拠価値を云云する点は、原審の専権事項たる証拠の取捨判断を論難するに帰着し採用できない。

論旨中,不在者の財産管理人が解任されるまでは不在者の所在が事実上明らかとなつても、不在者自身は自己の財産につき管理処分をする権限を有しないとの所論を以て原判決の判断の誤りをいう点は、独自の見解を述べるにすぎず採用できない。

なお、その余の論旨は、本件農地の権利移転につきなされた知事の許可は、その許可書(甲五号証)の文面上、昭和三二年一二月二〇日に締結された上告人被上告人間の売買契約を対象とするものであつて、被上告人が本件で主張する権利取得行為、すなわち昭和三一年四月一一日上告人の財産管理人高山道子と訴外鳥羽との間に成立した本件農地の売買契約上の買主の権利を昭和三二年六月二八日被上告人が右訴外鳥羽より譲り受けたとすることについては知事の許可がないから、被上告人の本件農地取得は無効というべく、これに知事の許可ありとした原判決の判断は違法であると論ずる。

しかし、原審判決(第一審判決引用)は、被上告人が上告人の所有に属していた本件農地の売買契約上の買主の権利を同判示の如く譲り受けたことを認定した上、その結果として右農地の所有権が上告人から被上告人に移転したことを判示しているのであつて、右認定判示は、挙示の証拠関係に徴し肯認できるから、上告人被上告人間の右農地所有権移転につき知事の許可が原判示の如くなされたことを以て被上告人の本件所有権取得を有効とした原審判断は正当であつて、所論違法は存しない。所論は、債権契約たる農地売買契約自体についても知事の許可を必要とするとの独自の見解を農地法三条について主張するものであつて採用できない。

なお、所論許可申請書添付の売買契約書に真実に反する事項の記載があつても、原判決認定の事実関係のもとでは、未だ本件知事の許可処分の効力に消長を来すものとはいい難く、この点を云為する所論も採用できない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判官長裁判官 河村又介 裁判官 石坂修一 裁判官 五鬼上堅磐 裁判官 横田正俊)

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